(注意:ストーリーの核心には触れませんが、若干ネタバレがあります。)
澤村伊智「ずうのめ人形」(角川ホラー文庫、2018年)
前作がかなり面白かったので続編を読んでみた。
前作と同じく、クラシカルなホラーに家族の問題や現代的視点が組み合わされていた。
澤村伊智とホラー小説大賞
興味を持ったので調べてみたら、本人のTwitterによると自称「おじさん」で「妻」がいることから男性と分かり、驚いた。
前作のイクメンに対する怒りみたいなものとかで、勝手に女性だと思っていた。
あと、ホラー小説大賞応募時のペンネームが澤村「電磁」だったのも驚き。なんかSFかラノベみたいな感じで作風と違う。
どの賞でもそうなのか分からないが、応募時からペンネーム変えてる人が多い。
岩井志麻子なんて応募時は「岡山桃子」…これだけ見たら、悪ふざけみたいだ。
ホラー小説大賞についても調べたら、今は横溝正史ミステリ大賞と統合されているらしい。
出版不況のせいか?両ジャンルにまたがるものが多いから的なことが書いてあって、それは確かにとは思ったが。
ホラー大賞は結構厳しく選考しているようで、該当なしという年が結構あった。
該当なし→貴志祐介「黒い家」→該当なし→岩井志麻子「ぼっけえ、きょうてえ」
という流れ、レベル高すぎる。そしてどっちも怖すぎる!
感想
日本人形というモチーフ、話を聞くと自分のところにもやってくる…というホラーの定番なのだが、
やっぱり怖いし、なにより構成が凝っている。ミステリ寄りという印象を受けた。
本作も、前作ほどではないがジェンダー論的な視点がわりとある。
また、無意識のバイアスを前提にした仕掛けもあった。
・料理研究家
料理研究家が登場し、「家庭料理」「家族」が連呼される。栗原はるみとかその系列っぽいな~と思ったら、
参考文献に阿古真理「小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代」(新潮新書)
があった。私も以前読んだことがある。
栗原はるみは、家族に作って好評だったものを紹介するようなスタンス。
プロデュースされたカフェにも、たまたま行ったことがある。
ランチョンマットには、出された料理とは関係なくいろんなレシピとイラストが小さく書いてあって、
フライドチキンは骨ごとぶつ切りにした鶏肉をじっくり揚げる、とかそういう感じで自分にはまねできないな~と思いつつ料理は美味しかった。
・家族観
家族とか家庭とか、大事だろうけどあんまり強調され礼賛されると、
うらやましさもありつつちょっと違和感を覚えてしまう。
二分の一成人式とか見ても思うけど、その陰にはいないことにされてる人々がいると思う。
家庭料理も、そりゃ美味しい手作り料理がいいだろうけど、
朝起きたら家に誰もいなくて、一人でちゃぶ台の上の菓子パンを食べて学校に行く…みたいな子も結構いると思うし、
家庭の味ってそんなに誰にでもあるものじゃないというか、ある人はラッキーというくらいかもしれないし。
他方で、「家族団らん」「手作り」に強迫的なまでにこだわる親とかがいると、子どもはしんどそうだなと思う。
なんか、一歩間違えると「あなたのためにこんなにやってあげてるのに!」ってなりそう。
ひらがなの怖さ
澤村作品では作品名もそうなっているが、ぱっと意味の分からないひらがなが出てくるのが、怖さを増幅させる。
なんかわけのわからない存在、原始的な感覚に訴えかけるもの、みたいな。
前作で化け物ぼぎわんが発する言葉の中にも、意味をなさない途切れ途切れのひらがながあってそれがかなり怖かった。
ホラー作品って漢字タイトルでおどろおどろしいのも多く、「屍」とかそういう字を使ってたりする。
怖いけど、漢字を見ればだいたい意味は分かる。
より本能に訴えかける怖さは、ひらがなの方だと思う。