生きるためのセミリタイア

当たり前を疑い、40代セミリタイアを目指す

身も蓋もない女性向けサバイバル術指南「馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。」

藤森かよこ「馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。」
(KKベストセラーズ、2019年)

 

 

ラノベにありそうな長いタイトル。
ブスの処世術みたいな本って時々出てくるし、「なんでそこまでして『つがい』にならないといけないのか?」とイラつくものもあったりするけど、本書はジェーン・スーが帯を書いていて、一味違いそうだと興味を持って読んでみた。

まず、表紙のイラストの女性たち、特に部屋着の人たちが絶妙にだらしなくていかにも実際にいそうだ。そういうよくいる感じの人に向けた本ですよ、ということだと思う。

目次の時点で刺激的。ごく一部を抜粋する。

苦闘青春期(37歳まで)

・本格的ブスは美容整形手術を受ける
・青春期こそ外観改良の費用対効果は高い
・とりあえず男を見たら性犯罪者と思う

 

過労消耗中年期(65歳まで)

・老年期に入るまでに自分の性欲を消費しておく

 

匍匐前進老年期(死ぬまで)

・馬鹿は中年期の終わりまでには死ねない

 

などなど。

著者の「馬鹿ブス貧乏」の定義が独特というか、大抵の人は含まれるであろう定義になっている。

馬鹿:一を聞いて一を知るのが精一杯
ブス:顔やスタイルで食っていけない
貧乏:賃金労働をしないと食べていけない

女性の生き方系って、「玉の輿に乗る」系か、かなり意識高い人向け(シェリル・サンドバーグのLEAN INみたいな)か、
あとはもうキラキラ自己啓発、スピリチュアル系とかで、あんまりしっくりくるのがないと思う。
本書は、地に足のついた、女性向けサバイバル指南本。

印象的な箇所を少し紹介すると、

パーリーピーポーといっても、せいぜいは飲み放題三千円で不味いもの食べて楽しいフリしているだけだ。持ち寄りのポテトチップスの袋を開けて食べているだけだ。話す内容も空虚な時間つぶしだ。そんな集団行動につきあうぐらいなら、ひとりでいるほうがいい。

著者は一人でいることを肯定している。自分が思っていることを言ってくれた感じがした。

まともな男は50人中14人しかいない。

「根拠はないけど50人に一人はサイコパス、二人は痴漢、三人は…」と主観でだいぶテキトーに計算していってこの数字になるのだが、まぁ実際そんな感じじゃないだろうか。言い切りっぷりが清々しくて笑った。

女の人生は、このような危機(※引用者註:性犯罪や望まない妊娠のこと)に満ち満ちている。だから女は鍛えられる。日本のような社会で育つと頭が悪くなりやすいが、それでも女性のほうが男性よりは本格的馬鹿が少ないように見受けられる。
それは、やはり女性の人生のほうが厳しいからだ。特にブスで馬鹿で貧乏な女性の人生は、大らかに馬鹿やっていられないほどに厳しい。いやおうもなく鍛えられる。おめでとう。

こんな風に女性の置かれる厳しい立場を直視した上で、生き抜く方法が考察されている。

著者は60代後半(1953年生まれ)なので、「老年期」の入口まで体験した上で書かれている。これくらいの世代の著者でしかも旧来の価値観から自由な人ってそんなにいないので、読んでてスカッとする。
「あなたは馬鹿なので」といった表現は頻出するものの、上から目線でもなく、親身に語りかけてくれている感じがある。


読書や学び続けること、現実を直視すること、エネルギーを使い切ることなどを勧めており、タイトルから受ける印象よりもまっとうな内容である。
更年期についての情報も多く、あまり知らなかったので勉強になった。
紹介されている本も面白そうなものが多く、ここからさらに読書が広がるという楽しみもある。例えば、諸富祥彦「孤独であるためのレッスン」(NHKブックス、2001年)などはこの本で知って読んでみたところ、普遍性のある良書だった。
突如登場する陰謀論や「舌はがし」など、正直戸惑う部分もあったが、全体としてとてもためになる本だった。

全編通して、とにかく身も蓋もない。

現実を直視し、なんとか生き抜きたいと思う女性におすすめの一冊である。